インタビュー 小林洋子(こばやしようこ)
先生のご専門は何ですか?
社会における様々なコミュニティ、中でも言語文化的にマイノリティの立場にある人たち(ろう難聴者、障害のある人、ジェンダー等)について、コミュニケーション・文化・ヘルスの側面から、彼たちを取り巻くさまざまな社会課題を発掘し、課題解決のための手段などについて、最近は特に力を入れて教育研究活動に取り組んでいます。
ヒアリングやアンケート、フィールドワークなどを通して、コミュニケーション手段や教育環境、経済状態、各サービス・社会資源へのアクセス、人や地域社会とのつながり、健康状態などを把握し、どのような実践をすればよりウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良い状態であること)な形に持っていけるのか、多角的な視点から研究したりしてきています。
また、教育研究活動で得られる成果やノウハウを、キャリア形成およびダイバーシティの観点からリソースやコンテンツ等を開発し、本学内の「ろう者学教育コンテンツ開発プロジェクト(教育共同利用拠点)」等を通して、教育機関や地域社会関係者、当事者など社会における多様なコミュニティに対して情報を発信したりしています。また、地域社会におけるコミュニティや教育機関等と相互に協働しながら、セミナーやワークショップ(例:「ろう者学セミナー」、「国際交流講演会」「手話の病院」、「ぼっちゃ交流会」、手話言語指導等)等、様々なイベントを実践したりしてきています。
「ろう者学(デフ・スタディーズ)」とは、言語文化的な視点からろう難聴者の歴史や教育、手話言語、人権、芸術文化、スポーツ、ろう文化など様々な領域を横断しつつ、社会におけるつながりを育む要素について探求する学問でもあり、欧米を中心に発展してきています。欧米では、「黒人学」や「女性学」、「障害学」、「LGBTQ+学」といった社会的にマイノリティである人たちについてアカデミックに学び、社会のあり方を異なる視点から捉え直し、多様な考えや価値観を持った人々が共創し合ったりしていくための教育研究活動が行われています。
新学部ではどのような授業を担当するのですか?
教養科目から専門科目まで、幅広く担当します。天久保キャンパスの授業としては、語学教育科目である「手話コミュニケーション入門・演習」「アメリカ手話言語1・2」、障害社会系科目である「ろう・難聴者の社会資源と自分史」、「ライフキャリア」、「異文化コミュニケーション」などを担当予定です。また、両キャンパス共通の科目として、「ダイバーシティの理解」「諸外国の障害者と文化・社会・生活」なども担当予定です。
「手話コミュニケーション入門・演習」「アメリカ手話言語1・2」
産業技術学部の学生と共同で学びます。視覚言語としてろう難聴者のコミュニティで使用されている日本手話言語やアメリカ手話言語の基礎レベルを学び、ネイティブサイナーや映像などを通してろう難聴者の手話言語表現、そして手話言語を使用する人たちの生活や言語、文化、社会などに関する理解を深めます。身近な出来事について日本手話言語やアメリカ手話言語で会話し、かつ自分の意見を表現することで、グローバル時代を生きるために欠かせない異文化理解力とコミュニケーション能力を高めてもらいます。
「ろう・難聴者の社会資源と自分史」
産業技術学部の学生と共同で学びます。様々な人が共生するグローバルな社会と、きこえない人の文化色が濃い社会の両方への参加の実現にあたり活用できる社会資源について、それぞれに必要な知識(歴史、制度、人権・権利擁護、芸術文化、スポーツなど)の知識の習得を図ります。そして、キャリアを築く上で軸となる「自分史」を作り、自身の過去の経験を振り返り、行動パターンや大事にしている価値観などを言語化することで、エンパワメントやアドボカシーのプロセスを経験してもらえるようにします。
「ダイバーシティの理解」
共生社会創成学部両キャンパスの学生と産業技術学部の学生が共同で学びます。ダイバーシティの概要をはじめ、ダイバーシティを取り巻く歴史や社会構造、社会モデル、そして、ジェンダー、障害者、在日外国人など社会的にマイノリティの立場にある人について学びます。大学や企業、メディアなど幅広い視点から、自分の関心のあるテーマに対して、論文精読やフィールドワーク、調査などを行い、多様な人々がその個性を発揮して活躍できる社会を実現するための姿勢と方法を身につけてもらうための議論を深めます。
共生社会創成学部の受験を考えている学生へのメッセージをお願いします
共生社会創成学部は、日本で唯一障害当事者の視点を生かしつつ、文理を融合した横断的な学びができる学部です。知識の習得だけでなく、社会で実践できるスキルを身につけるための多彩な授業科目を揃えています。少人数で学べる環境が充実しており、多様な言語的・文化的背景を持つ教員と学生が集うコミュニティの中で、学生が主体的に選び、学び、創造する力を育む環境が整っています。社会課題の解決や新たな価値の創造を目指す上で、共通の関心や目標を持つ仲間を見つけたり、連帯感を深めたりするなど、支え合うコミュニティが大きな力を生み出します。本学はそれを実現できる環境が十分に整っています。
また、グローバル教育も本学だからこそできる取組みを実践してきています。視覚情報を活用した英語の授業やネイティブサイナーによるアメリカ手話言語の授業・サロンなど、ろう難聴学生が語学や異文化コミュニケーションを学びやすい環境が整っています。海外の協定校への短期留学では、情報保障が整った環境の中で現地の生活や言語、文化、教育、歴史などについて学び、自分と異なる価値観や文化的背景、歴史を持つ人々と交流することができます。また、多様なオンライン学習方法を活用したオンライン国際協働学習(COIL)も展開しており、実践的なワークを通して海外の学生と共通の課題解決に取り組み、多様な価値観を持った他者との協働や世界規模でものごとを考える姿勢を育みます。
予測困難な時代と言われる昨今、誰もが社会的活動の中でのリーダーシップや組織でのマネジメント、時代の変化に柔軟に対応できる力、そして逆境や危機から立ち直るための回復力や適応力(レジリエンス)など、様々なスキルが求められるようになってきています。インクルーシブなコミュニティづくりの担い手として、多角的な視野と深い洞察力を磨き、誰もが自分らしく生き、持続的に活躍できる共生社会を創り上げていく、そんな人材を目指してみませんか。私自身、ろう当事者として、一人ひとりが自分らしいキャリアを歩んでもらえるように応援していきたいと思います。
