読書支援機器貸出事業みかん箱プロジェクト運用モデル

目次

最終更新日:2025年2月26日

このページで分かること

読書支援機器貸出事業のモデル事例をご紹介します。機器貸出を事業化する際に参考となるリソースの目安や、実務で活用可能な文書・イラストのテンプレートを掲載しています。

また、このみかん箱プロジェクト運用モデルの解説と、参加メンバーによる振り返り動画がございます。動画を視聴しながらご記入いただく振り返りシートもございますので、よろしければ研修等でご活用ください。

1.  提案の背景

● 読書×ICTの支援リソースが全国的に不足
● 専門人材・運用ノウハウが不足
● 機器貸出ニーズは大きいが潜在
●「みかん箱」実証でモデル化を目指す

みかん箱プロジェクトロゴ「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(第二期)」では、2025年度以降、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として、視覚障害者等がICTを円滑に利用し、読書するための技術習得支援を行うことなどが示されています。

また、筑波技術大学では、過去2年間にわたり文部科学省読書バリアフリーコンソーシアム事業を受託し、障害者の読書とテクノロジーに焦点を当てた取り組みを進めてきました。

その結果、障害者がICTを活用して読書を行う際の支援が十分ではないこと、公共図書館にはテクノロジーを活用した読書支援に関する知識を持つ人材が不足しており、業務としても可視化されていないことが明らかになりました。

加えて、読書の際に使用する機器の貸出実態についても、読書支援機器を所有していても館外貸出を実施している団体は少なく、地域的に偏在していることが分かりました。館外貸出を行わない理由としては、台数不足や運用ノウハウの不足により、機器が十分に活用されていないことが挙げられます。

このように、読みづらさを抱える人が、機器を活用した多様な読書方法を試す機会は限られています。一方、今年度実施した調査からは、実際に館外貸出を行っている団体の中には、年間貸出数が500件を超えている団体も存在します。このことから、ニーズがないのではなく、サービスが十分に提供されていないためにニーズが潜在化している可能性が考えられます。

そこで、2025年度の新たな取り組みとして、組織向けに読書支援機器を貸し出す「みかん箱プロジェクト」を試行し、公共図書館を窓口に読書支援機器セットの団体貸出を行いました。なお、プロジェクトの名称は、「りんごの棚プロジェクト」に着想を得て設定したものです。

2. みかん箱プロジェクトの概要

● 2025年度につくば市立中央図書館、取手市立取手図書館の2館で試行
● タブレット・デイジー・スイッチ等をセットで貸出
● 多様な読書方法を体験
● 参加者の声から運用モデルを作成

「みかん箱プロジェクト」では、つくば市立中央図書館および取手市立取手図書館の協力のもと、読書支援機器のセットを貸し出しました。内容は、タブレット、デイジー機器、入力装置(スイッチおよびインターフェース一式)、アーム、スタンドなどです。

実際に体験いただくことで、読書にはさまざまな形があることを知っていただき、自分に合った読書方法を見つける手助けとなることを目指しました。

そして、プロジェクトに参加いただいた皆様からのフィードバックを基に、公共図書館等が読書支援機器を貸し出す際に必要となるリソースを整理し、本文書「読書支援機器貸出事業みかん箱プロジェクト運用モデル」としてとりまとめています。

3. 必要なリソース

3.1 スケジュール

前年度 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
予算確保
機材の準備・資料の準備
受入れ先の確認
広報
研修
実施

みかん箱プロジェクトは、上記のような流れで進められました。

予算確保は前年度、機材と資料の準備に4か月、研修に3か月、広報に3か月を費やし、図書館での貸出開始は10月でした。当初は9月スタートを目指していましたが、準備に時間を要し、1か月延長されました。

3.2 予算・人員

予算は、機材購入に約26万円を使用しました。費用を抑えるため、大手インターネット通販などで販売されている整備済み中古品を活用しています。公共図書館では新品の調達やリース契約が必要になる場合があり、この価格はあくまでモデルケースの目安、事例とお考えください。

また、プロジェクト関係者の人件費は計上しておらず、既存の備品を活用している部分もあります。人員は、つくば市中央図書館から6名、取手市立取手図書館から5名、筑波技術大学から2名が関与しました。

4. みかん箱プロジェクトで準備したもの

● 約26万で2セット準備可能
● 中古はコスト◎、保険に注意
● 書類は手続き・申請・説明書など
● 利用者/窓口向けマニュアルが要点

4.1 機材

機材 個数 単価
タブレット(大) 1 ¥98,000 ¥98,000
タブレット(小) 1 ¥69,000 ¥69,000
デイジー機器 2 ¥20,000 ¥40,000
スイッチ 2 ¥5,500 ¥11,000
スイッチインターフェイス 2 ¥3,500 ¥7,000
アダプター 2 ¥1,000 ¥2,000
デイジーアプリ 1 ¥3,000 ¥3,000
アーム 2 ¥3,000 ¥6,000
スタンド 2 ¥2,000 ¥4,000
セキュリティスタンド 1 ¥7,000 ¥7,000
タブレットケース 2 ¥3,000 ¥6,000
折りたたみコンテナ 2 ¥1,500 ¥3,000
¥256,000

みかん箱セットの写真。タブレット、デイジー機器、スイッチ一式、スタンド、アームが映っている。機材としては、タブレット、デイジー機器、スイッチ一式を2セット準備しました。付随する備品として、タブレットケース、2種類のスタンド、アーム、折りたたみ式コンテナボックスを用意しました。これら2セット分が、およそ26万円で一通り揃えられることが分かりました。

タブレットは、ホームボタンのないiOSのアクセシビリティ機能が比較的充実しています。ストレージ容量は書籍データの利用を想定し、256GB以上が望ましいと考えられます。ただし、費用を抑えるためには整備済み中古品が良いものの、タブレットは適用できる動産保険が少なく、保険やリース契約を考慮すると別の調達方法が必要になる場合があります。

デイジーアプリは、対応するデータの種類の多さと、窓口担当者の取り扱いやすさの観点から選択しました。

スタンドやアームにも注意点があります。スタンドは、高さや角度を調節することができ、揺れが少ないもの、折りたたんで持ち運ぶことができるものを選びました。また、展示する際に使用することができる、キーロックチェーン付きのセキュリティスタンドを追加しました。

アームについては、机などにネジでがっちり固定することができ、操作時の揺れが少ないものを選びました。揺れるものは、読書中に気分が悪くなってしまうことが多いからです。

折りたたみコンテナの大きさは、宅配100サイズ(3辺の合計が100未満)のもので十分です。今回は「みかん箱」なので、オレンジ色のものを採用しましたが、耐荷重量が大きいものが適しています。

その他、機器の詳細については事務局へお問い合わせください。

4.2 書類

  • 送料手続き関連書類

送料手続きでは、特に返送料の取り扱いに悩みました。今回は配送業者の売掛伝票を用いましたが、貸し出し先によって便利な配送業者が異なるため、返送料を各自負担とする方が手間を省ける場合があります。

  • 館長判断の手引き

貸出対象の判断については、図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドラインの別表2にある「利用登録確認項目リスト」を活用しました。

プロジェクト紹介文書は、掲示・配布用のリーフレットとウェブサイトの2種類を作成し、個人情報や破損対応の説明も記載しました。「7. 広報」でご案内する資料と同一です。

  • 利用申請書

利用申請書はみかん箱プロジェクト紹介リーフレットの裏面とウェブサイト内に掲載されています。希望日は利用開始2週間前までとしました。

利用者向け説明書や窓口担当者向け説明書は、各図書館の障害者サービスの流れを整理しなければ作成できません。まずは各館の状況を整理してから、その内容に合わせて適宜修正してご活用下さい。

窓口担当者向け説明書は、各館所蔵のアクセシブル資料や機器、サピエとの契約状況に応じて複数バージョンを作成しています。また、展示用に使用できるサンプルデータは「特別な許諾を得たもののみ」である点に注意が必要であるため、冒頭に注意喚起を記載しています。

フィードバック集約書類につきましては、参考様式としてご活用ください。

展示パネル用説明文書は、プロジェクトを進める中で必要性が判明し、作成しました。ワード形式で作成し、各館で加工できるようにしてあります。取手市では、機材番号とパネル番号を対応させる工夫や、来館者が機器に触れられるよう「だれでもさわってOK!」の掲示を追加されたとのことです。

5. 受け入れ先の選定と連携

受け入れ先の確認としては、障害者・高齢者施設、教育機関など、地域で支援機器の活用が見込まれる団体に声をかけることから始めていただきました。
また、一部自治体では関係機関をつなぐ配送システムを持っている場合があります。こうしたシステムが、支援機器の貸し出しの際に活用できるかどうかも確認しています。

受け入れ先の目途が立つと、貸し出しの流れの整理も進みます。これらは、利用者向け・窓口担当者向け説明書作成と並行して進めました。みかん箱プロジェクトの貸し出し対象は団体のみとしたため、「学校などへの貸出に近い」との声を参加した図書館からいただきました。

6. 研修

研修は、オンラインで学べる内容を探し、「デジタルアクセシビリティアドバイザー認定試験対策講座 Basicレベル編」を受講して準備を進めました。団体契約で一人当たり7,700円の講座を受講しています。
受講後に気づいた点として、YouTubeにも参考になる動画が複数あるようです。このような情報に触れておくことで、窓口担当者が一定の知識をもって対応できるようになります。

参考になる動画の例

新潟大学 山口俊光さんが提供する支援技術に関する情報チャンネル

慈恵医科大学アクセシビリティ・サポート・センター(ASC)が提供する講座

7. 広報

以上の準備と並行して、広報素材も準備しました。ここまでの内容を集約し、ウェブサイトおよび掲示・配布用のPDFを作成しました。
これら広報素材を元に、図書館のウェブサイトや自治体の広報に、案内を掲載していただきました。

また、各組織で広報の際に活用することができるイラストテンプレートを準備いたしました。著作権フリーです。
画像の上で右クリックし、[名前を付けて保存]を選択して任意の場所に保存して下さい。
弱視の方が読書をしているイラスト。スマートフォンに顔を近づけている様子。

弱視の方が読書をしているイメージ

肢体不自由の方が読書をしているイラスト。タブレットを声で操作している様子。
肢体不自由の方が読書をしているイメージ
全盲の方が読書をしているイラスト。点字端末で何かを読んでいる様子。
全盲の方が読書をしているイメージ

8. 活用事例

このようにして準備したみかん箱が、実際に両図書館ではどのように活用されたのかご紹介します。参加図書館による振り返り動画もございますので、よろしければご覧ください。

保護中: 筑波技術大学読書バリアフリーコンソーシアムテクノロジーハブ2025年度活動報告

8.1 つくば市立中央図書館

つくば市立中央図書館では、障害者サービスや高齢者サービスの充実を図るため、職員の見識向上と利用者ニーズの把握を目的に「みかん箱プロジェクト」に参加しました。

受入先の検討として担当課などへ照会を行いましたが、市内学校や関係機関からは参加表明がなく、みかん箱の活用には至りませんでした。

その後、茨城県立つくば特別支援学校および特別養護老人ホームの2施設に対し貸し出しを実施し、当館職員が機材を持参して使用方法の説明を行いました。特別支援学校では資料提供の充実により今後の活用が期待される一方、高齢者施設では機材設置環境や運用面に課題が見られました。両施設とも、利用促進が担当職員に依存する状況が課題として挙げられます。

本プロジェクトを通じ、さらなる周知の必要性を認識しました。今後は施設への機器普及や体験機会の創出により認知度を高め、障害者・高齢者サービスの充実につなげたいと考えます。

8.2 取手市立取手図書館

取手市立取手図書館では、デイジー図書の普及や利用啓発を進める中で、貸出が低調である現状を踏まえ、サービスのあり方を見直す契機として「みかん箱プロジェクト」に参加しました。

まず、必要とする方へ確実に届けるため、公民館や駅前窓口、小中学校への周知に加え、障害福祉課・高齢福祉課、社会福祉協議会、障害児発達センター等の関係機関を訪問し、理解と協力を得ました。機器は職員が直接訪問して説明しながら貸出・回収を行い、利用後の意見聴取も実施しました。

広報面では、広報紙やホームページ、図書館だより、ボランティア情報誌等への掲載、福祉まつりへの出展、館内展示や体験機会の提供など、多角的なPRを行いました。その結果、6団体での利用につながりました。

利用者の反応としては、個人貸出を求める声や関心も見られた一方で、特に大人には読書支援機器への無関心や苦手意識があることが課題として浮かび上がりました。子どもは比較的抵抗なく利用しており、保護者や教員への分かりやすい情報提供の重要性を認識しました。

今後は、画像や動画を活用した案内の充実、障害者サービスの整理・周知強化、館内表示や機器配置の見直しを進めるとともに、読書支援機器の購入を予定しています。また、職員研修や先進事例の視察を通じ、継続的な学習と情報更新を図りながら、読書バリアフリーの一層の推進に取り組んでまいります。

9. 留意事項

最後に、読書支援機器貸出事業の実施にあたり、導入前に整理しておきたい点をまとめます。本運用モデルを参照のうえ、各組織における備品管理、個人情報保護、著作権対応を確認し、方針を文書として明示することをお勧めします。

破損・紛失への対応

みかん箱プロジェクトでは、適用可能な動産保険の選定が困難であったため、利用者に明らかな過失がある場合には実費負担をお願いする取り扱いとしました。なお、試行期間中に破損・紛失事例は発生していません。

導入時には、破損時の対応方針を文書化し、返却時の確認体制を整備することが重要です。

個人情報の取扱い

タブレット等には閲覧履歴やアカウント情報が残る可能性があります。本運用モデルでは、データ消去手順をマニュアル化し、返却時に確認、定期的に初期化作業を行うこととしました。

また、各組織の個人情報保護方針に則り、取得情報を目的外に使用しないことを明示することも重要です。

著作権および利用資格

本運用モデルでは、著作権法第37条第3項を踏まえ、利用登録確認項目リストの活用や、許諾済みデータのみの展示など、法的整理を行っています。

貸出対象および運用範囲

みかん箱プロジェクトは、操作サポートの範囲、配送時の扱い、管理方法などを事前に整理した結果、団体貸出に限定して運用しました。個人貸出を行う場合には、利用支援や機器管理に関する追加的なリソースが必要となることが想定されます。そのため、関係機関との連携体制を構築することが、継続的な運用の鍵となります。